多種多様な仕事に携わってきましたが、翻訳の奥深さには毎回頭を悩ませるばかりです。今日は日本でよく使われる「相談させてください」というフレーズを元に、どういう方法で訳しているのかをまとめていきます。
相談させてください、は日本人同士だから通じる言葉
一般的によくきく「相談させてください」は、正確にいうと「(ちょっと不明瞭なことがあるので、あなたに、あとで)相談させてください」ということだと思うのですが、それを理解できるのは日本の慣習になれている者同士だからです。
同じ民族で似通った成長背景があるから、私たち日本人は少しの言葉で何を言いたいか想像することができるのです。
それでは、日本人フィルターを外してみたら、どうでしょうか。
この文章には、主語も述語もなく、誰が何をするか不明瞭です。それに加え、英語の特性は、主語述語をしっかりさせる傾向にあります。
つまり、誰が、何を、いつ、どうするかといった情報まで必要となるのです。基本的に外国の人と話すときは認識の相違を生まないためにも、「あえてはっきりさせる」必要があることを覚えておくとスムーズに進むでしょう。
「誰が」「誰に」「何を」相談するかはっきりさせると訳がラクに
そのためには、まず「誰が誰に対して、何を相談するのか」を確認します。
「相談」は日本語だと、
- わたしが、鈴木さんに、資料について相談したい
- わたしが、鈴木さんに、個人的なことで相談をしたい
- わたしたちからの提案について、ぜひ一度相談させてほしい
というように、どんな状況でも使える万能な言葉です。しかし、これを英語にはこういった「相談」という万能ワードに変わる言葉がないので、文章をイチから作る必要があります。
それを元に「相談させてください」を英訳すると
【英訳例①】わたしが、鈴木さんに、資料について相談したい
Mr Suzuki, I need your advice on something on my presentation materials.
鈴木さん、私のプレゼン資料についてアドバイスをいただきたいのですが…
I’d like to hear your opinion about this material.
この資料について、あなたの意見を伺いたいのですが…
この場合、「相談する」を「アドバイスがほしい」に言い換えると、文章がわかりやすくなります。
しかしそのまま「I want your advise」と訳すと上から目線になってしまうので、動詞は「自分というより、客観的に見てやむを得ない」という意味を持つ、Needに変えたほうが適切に伝わります。
- Need (客観的な理由から)~する必要がある
- Want (主観的な理由から)~した
- Advise on はイディオムなので、セットで覚えてもいいかも
【英訳例②】わたしが、鈴木さんに、個人的なことで相談をしたい
Can I ask something?
ちょっと聞いてもいいですか?
Can I talk to you in private?
ちょっと個人的なことで、お話があるんだけど
相談するを辞書でひくと、「Consult」が出てくることもあると思うのですが、Consultは専門家などに意見を聞くイメージなので、あまりプライベートでは聞かない気がします。
「最初に相談させて」、というよりは、Do you have a minute?「ちょっといいかな?」といったラフな言い方をして、話題を展開していくほうが自然な場合もあります。
出川イングリッシュにも出てきた Can I ask something?
Can I ask something?「ちょっといいですか?」は、「世界の果てまでイッテQ出川哲朗のはじめてのお使い」で出川ガールが、町の人々に話しかけるのに使っていましたね。
【英訳例③】わたしたちからの提案について、ぜひ一度相談させてほしい
これは最近訳したプレゼン資料のなかにあり、ちょっと考えた表現です。
なぜならこの資料を、Webサイトの問い合わせ返答としてメールで送る場合と、商談中にこのワードを登場させる場合で表現が異なるからです。この文章の核は前者であれば、商談に着地することなので、それを考慮すると翻訳は、
It would be grateful if we can set up business meeting.
このための商談をさせていただければ幸いです
になり、もし商談中に使うものであれば
If you have any questions, please feel free to contact us!
もし何かご質問があれば、いつでもご連絡ください
となります。どちらにも「相談」という言葉をいれていないのは、あえてで、翻訳で大事なのが「言っていることの核が相手へ伝わること」だからです。「これだ!」という型はなく状況を客観的にみて、微妙なニュアンスを読み取り、相手に伝えていくことが必要なのです。
その他、使える便利な表現諸々
- What do you think about ◯◯ ? (◯◯についてどう思いますか?)
- Can I ask you for some advice ?(ちょっとアドバイスをもらってもいい?)
もちろんセットでも、
- Can I ask you something? I need your advice. (ちょっと聞いてもいいですか、アドバイスが欲しくて..)
中学英語を組み立てたこの表現「Please tell me what you think about that.(それについてあなたの意見を聞かせてください」は、どちらかというと、上司が部下に意見を求めるような場合でしょうか。
あとがき
日本語のフレーズや単語を出して、「これって英語でなんていうの?」と言われても全く同じ意味を持つ、フレーズがない、出てこないことって実はよくあることなんです。
それは言語の成り立ちが違うから。似たような言葉でも、違う土地で生きてきた言葉の背景にはまったくちがうものが見えるのです。
たとえるなら英語はトランプ、日本語は花札といったところ。
4種類の柄が1-13まであるトランプ(さらにジョーカーというイレギュラーまである)に対して、花札は4種類の花が12ヶ月分まとまったものです。そもそも成り立ちも、遊び方(使い方)も違うのです。トランプの1枚を、花札に置き換えることはできません。単語・フレーズ単体での直訳は意外にも、それほどまでに難しいものなのです。
パターン化して暗記するのも全然アリだと思いますが、翻訳に困ったら、ぜひ、頭をフラットにして、「この言葉の核はなにか」を考えてみると少し楽になるかもしれませんね。言語は奥深いですね。
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